未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―29話・帰国組は一人じゃない?―



翌日、船着場に到着したファブール行きの船に乗り込んだプーレ達は、
前回の船旅よりはずっと安全に船旅を楽しんだ。
ダムシアンを離れ、だんだんと冷たくなってくる風が、
日を重ね距離が延びるごとに冷涼なファブールが近づいていることを教えてくれる。
もちろん、今まで暑さですっかりばてていた3人の元気度も、それに正比例していた。
ファブール城近くの船着場で降りると、空気はもうすっかり涼しくなっていた。
ダムシアンの暑さと比べると、常人なら寒いくらいだろう。
「や〜〜っとすずしくなったネ!」
「うん。ちょっぴり冷え冷えだねぇ〜。」
「お前ら、ほんとに寒いの好きだな〜。おれにはちょっと肌寒いくらいだよ。」
ダムシアンの時とは打って変わり、
アルセスはその元気にちょっと感心している節があるようだ。
彼はそれほど寒い方は得意ではないので、今度は逆の立場になるかもしれない。
“良かったな。ここからは楽な環境になるから、元気にいけそうだ。”
“はしゃぎすぎて逆にすべるかもよ?”
「何ですべるんダヨ!!」
エメラルドの茶々をばっちり拾って、パササは町中という事実を無視して怒鳴った。
(パササ!聞こえちゃう!!)
(ウゲッ。そーだっタ……。)
プーレに小声でたしなめられて、やっとパササは我に返った。
エメラルドにはめられたと言わんばかりの、心底うんざりした顔であったが。
それは置いておくとして、当たり前ながら、町中でうかつに六宝珠と会話するのは得策ではない。
石抜きで会話が成立するような演技が出来るならまだしも、
そんな高等芸は出来ないのだから。
「ね〜ね〜、プーレ〜。ここでおもしろいところとか知ってるぅ?」
「えー……ちょっと知らないよ。
だって、ぼくここは一回だけ着たことあるけど、お城の方だって行ってないもん。」
人間はよその国に行くときに、
船を使って楽をするという話だけ聞いたことがあるので、
プーレはファブールを出る際にこの港を利用したことがあるのだ。
しかしその時はまだ人間の姿になる前だったので、積荷にまぎれて船にこっそり乗った記憶がある。
よくばれなかったなと、ちょっと年長な人からつっこまれそうな真似だが。
もっともそれも、もう大分前のことになった。
「え、そーなノ?」
「当たり前だよ。
だって、ぼくお兄ちゃんがいなくなっちゃうまで、森の外はあんまり行ったことないし……。
それにお城って、ぼくが住んでた森からけっこう遠いんだよ?」
プーレが住んでいる森は、ファブール城から見ると辺境の方になる。
だから、森を出るまではもちろんプーレは城やその近辺であるこの港には行った事もなかった。
「あ、そっカー。」
“まぁ当然だろうな。
子供が遠出するなんてないし、人間の町に自分たちから行くなんてありえない。”
パササやエルンだって、自分たちの島での暮らしを思い出せばすぐにわかるだろう。
「って事は、プーレの森はここからけっこう遠いわけか。
なぁ、大変だっただろ?」
「あ、うん。道とかあんまりわかんなかったからなー……。」
「そりゃ大変だー……。お前、えらいな〜。」
道がわからないのに、よく旅を続けられたものだ。
旅の大変さはアルセスにも分かるから、余計にそう感じて感心する。
いくら兄を探すといっても、並大抵ではなさそうだ。
「えー?じゃあ、どうしてたワケ?」
「えーっと……どうしたんだっけなぁ?
もしかしたら、人間を見つけてついていったのかも。
ほら、人間って町とかに行く人が多いから。」
「そーか?」
“ちょっと考えれば、大体そうだと思うぞ。
冒険者でもなければ、普通は町から町への移動しかしないからな。”
「あー、そうだな!うん。確かにそうだ。」
最初は腑に落ちなかったらしいアルセスだったが、ルビーの補足で納得がいったようだ。
確かに、考えてみれば町以外の場所に移動する人間の方が少ない。
洞窟などの危ない場所に行くのは、冒険者か討伐隊くらいなものだ。
「やっぱりプーレって頭いいねぇ〜♪」
自分なら絶対思いつかないという自信があるのか、
エルンはプーレが恥ずかしくなるくらい手放しで褒め称えてくる。
無邪気さたっぷりで冷やかしぬきにやってくるので、その点ではつっこみようがない。
「とりあえず、ここからまたどこに行くか決めないとな。
ファブールはダムシアンとかバロンほどじゃないけど、やっぱりそれなりに広いらしいもんな。
えーっと、買っておいた地図は誰が持ってたっけか?」
「ハイハーイ!ボクー!」
「よーし、じゃあさっそく貸してくれ!」
パササは元気よく挙手した後、地図を入っている荷物袋ごとアルセスに押し付けた。
探すまではしてくれないらしい。
「パササ、ちゃんと地図だけわたしなよ……。」
注意をしつつ、プーレはアルセスが荷物袋から出した地図を覗き込む。
“しかしファブールか……懐かしいな。”
(なつかしいってぇ?)
感慨深そうに語るルビーの言葉が気になって、エルンがつっこんできた。
“港の外に出たら話すから、今は置いておいてくれ。”
((??))
プーレ達は揃って首を傾げるが、今は周りに人が多いので喋ってはくれないだろう。
時間が経つと忘れてしまいそうだが、仕方がない。
「うーん……まずお城に行ってみたほうがいいのかな。
たぶん、一番たくさんの人がいるし。」
「城の近くは基本だよな。よし、じゃあご飯買ってからここを出るか。」
「オー!」
ファブール城はここから北に行ったところにある。
たいした距離ではないが、食糧は多めに持っておいた方が安心だ。
4人は意気揚々と、船着場の側に構えられた市場に向かっていった。
ちなみにこの国出身の仲間が一人居るというだけで、
出身者当人以外は妙に安心した風な雰囲気だったのは、大したことでもない小話である。


―街道―
ファブール城に続く街道を歩く道中。
不意に、エルンがこんなことを言い出した。
「ねーねー、ルビー。さっきのなつかしいって、なんでぇ?」
エルンは港でルビーがチラッと言っていた言葉を思い出したようだ。
“ん?あぁ、さっきの話か。そうだな……ここまで来ればいいだろう。”
言いかけていた話をルビーはすぐに思い出したようだ。
周りに人がいないことを確かめてから、ようやく話し始めた。
“大分前にも言ったが、俺達六宝珠はポートゥ王国で作られたんだ。
そのポートゥ王国は今のここ、ファブールにあった。”
『えーっ?!』
アルセスを除いた3人は六宝珠と長い事一緒に旅をしてきたが、今のは初耳だ。
特に、ファブール出身のプーレの驚きは大きそうである。
「そ、そうだったのか〜。じゃあ、お前らもここ出身って事なんだ。」
“まー、そうなるかな?
ただ、ファブール以外から原石を取ってこられたやつもいるし、厳密に言うと第2の故郷ってところ。”
ファブールでは取れない宝石も、メンバーには混ざっているのだろう。
宝石には4人とも詳しくないのでよくわからないが。
「ふーん。そんなのどっちでもいいヨ。」
“あ、ひどいこの子。俺のガラスのハートが。”
「お前心臓ないジャン!」
この間見たようなパターンのボケとつっこみが炸裂する。
「そーだよ〜。エメラルドなのにガラスなのっておかしいよぉ〜?」
“エルン、そうだよといいながら話がかみ合ってないんだが……。”
「え?そーかなぁ?」
エルンはてんで自覚がなかったらしく、ルビーの指摘もピンと来ないらしい。
不思議そうに首を傾げるだけだった。
「うん、何かちがう気がする……。」
プーレにも、傍で聞いているとパササと論点が食い違っていることが分かる。
教えてやるべきかどうか迷ったが、
具体的にどういえばいいのかプーレにはわからないのでどうしようもない。
「なぁエルン、聞いていいか?
心臓がないってパササがつっこんでるのに、何でエメラルドなのにガラスがおかしいってなるんだ?」
「え、何かおかしいのぉ?」
アルセスが具体的に指摘してやったのに、エルンはやっぱりわからないらしい。
根本的に感覚を分かってくれていないのだから、どうしようもなさそうだ。
これは諦めるしかないと悟ったアルセスは、追求をやめた。
「とにかく、ずれてるのはずれてるんだって。まぁ、もういいけどな。」
こんな話を引っ張っていてもしょうがないので、アルセスは話を打ち切った。
どうせなら、さっきの六宝珠の身上話に戻った方がいい。
「ねぇ、そのポートゥって国はどんなところだったの?」
“アクセサリー作りとか、神殿の彫刻をするとか、とにかく細工と工芸に優れた国だった。
お前たちに分かりやすく言えば、きれいなものを作る職人がたくさん居る国だな。”
「へ〜……たとえばどんなノ?」
“俺たちとか、大理石で出来た神殿の柱の模様とか。
ま、1000年以上昔の国だし、遺跡にでも行かないと実物ってなかなかないけどな〜。”
「よくわかんないけど、すごいねぇ〜!」
「神殿って、おっきいもんね〜……。あんなの作ったんだ。」
エルンの言うとおり、実物が六宝珠くらいしかないのでよくわからない所が多いが、
それでも神殿の柱を造ると聞くと何となくすごいと感じる。正確には表面の彫刻だが。
「アクセサリーとかがうまいって事は、みんな器用だったんだろうなー。」
“うん。麦に字が書けるのが標準。”
“それは違う……。”
アルセスの子供っぽい安直な発想に、ちょっとありそうな気もする嘘をさらっとエメラルドがつく。
麦に字を書ける人間は居たかもしれないが、標準ではなかったはずだ。
毎度毎度の事ながら、よくこうもぽんぽん嘘を思いつくものだとルビーは少しだけ思った。
もっともそれは昔からのことなのだが。
「いいなー、行ってみたかったかモ。」
「何でだ?」
パササは男の子なのに、宝石の類に興味があるとは珍しいとアルセスは思ったので聞いてみる。
すると、少し違った返事が返ってきた。
「コイツらっていうか、エメラルドの作ったヤツの顔見たかったカラ。」
「それって……さぁ。」
じと目のパササが言い放った一言。
親の顔を見てみたいという類のニュアンスに聞こえるのは、プーレの気のせいだろうか。
いや、たぶんそうではないだろう。
確かにプーレだって見てみたい気もするが、パササほど意地悪な理由ではない。
“あー、何だよその目。俺のことをあばずれみたいな目で見て……。”
よよよと泣きまねをしそうな声音で、エメラルドがわざとらしい抑揚でまた言い出した。
何故自分の人格は男なのにあばずれなのか聞きたいところだが、たぶんそこに深い意味はない。
言ったところで、昔は男だって使ったというかび臭そうな返事が返ってくるだけだろう。
「ていうか、あばずれって何?」
“一言で言うとー……。”
“そんな言葉は子供に教えなくていい!!”
エメラルドのテレパシーをさえぎって、ルビーはかんかんに怒った。
止めないとろくでもない知識を際限なく教えかねないので、油断もすきもないのだ。
もっとも、ろくでもない意味だとは知らないプーレは、うやむやにされて怪訝そうにしている。
「ねぇ、アルセスは知ってる?」
「う〜ん……知らないなー。」
聞かれても答えにくいので、アルセスは少々目を泳がせつつはぐらかす。
幸いプーレはそこまで興味がなかったらしく、それ以上追求することは無かった。
「まぁいっかー。
ねえねえパササ、ファブールのお城ってどんなところだろうねぇ?」
「わかんないけど、楽しみだよネー。」
関心が行き先に移ったはっちゃけコンビは、
まだ見ぬファブールの城に思いをはせてうきうきしているようだ。
いつまでもエメラルドに構っているとキリが無いからか、単にプーレが質問したせいで話がそれたからか。
たぶんどちらかだろう。
「お城ついたら、まず何しよっかなぁ〜?」
「揺れないベッドで寝たいよな。」
「そうだね〜。」
航海中の揺れるベッドを思い出して笑いながら、
一行はのんきな気分でファブール城に向かっていった。



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毎日メモをつけるようになったら、一気に改善しましたね更新ペース(笑
確か前回が1月の末だったはずなので、1ヵ月半弱くらいで次が出来た計算になるはずです。
最後は20行くらいガーッと一気に書きましたしね。
毎日どれくらいやったか記録を残すとうまく行くっぽいです。
少なくとも今のところはそういう結果。質は置いておいてですね、先に進まなきゃどうしようもないんで。
そういうわけで次はファブール城。
今からこいつらのリアクションがどうなるか想像付きます(何